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「一瞬いいですか?」

🐶

「一瞬いいですか?」は、変な言葉だ。「一瞬いいですか?」と聞いた瞬間に一瞬は終わってしまうし、「いいよ」と答えてる間にも一瞬は終わってしまう。そしてなにより、その後の用件が、一瞬で終わったためしがない。

一瞬とは、文字通りにとらえれば、一回瞬きをするくらいの短い時間ということだ。なので、例えば、雷が光った瞬間であるとか、そういうスパンの時間を指すのが、本来の使い方なのだろう。でも、それにしては、僕らは「一瞬」という言葉を使いすぎているような気がする。そんなに短い時間について、何度も話題にあがってくるのも、何か変だ。

どうして「一瞬」という言葉を使ってしまうのか。それは、依頼のハードルを下げるためだ。「ちょっと待ってください」「ちょっといいですか?」。これらの「ちょっと」よりも、もっと「ちょっと」なんです。そう強調したいために、「一瞬」を使っているのだろう。一度こっちに興味を持ってもらえれば、後はできる限りこちらの用件に付き合ってもらおう。そういう、「フット・イン・ザ・ドア」的な作戦で使っている人もいるだろう。

こうして、「一瞬」は、なぁなぁとなり、徐々に長い時間をも指すようになってしまった。こうなると、「一瞬」がどれくらいの長さなのかわからない。相手に対して「大げさな用事じゃないんですよ」という気遣いもあったのかもしれないが、もはや「どんな大きさの球が飛んでくるかわからない枕詞」となっているようにも感じる。

そのためか、「5分いいですか?」「1分いいですか?」といったように、具体的に用件のボリュームをいう人もいる。見積もりができるのなら、この形式の方が、相手にとって親切だと思う。こういえば、今すぐ聞いたほうがいいか、別の時間に聞いたほうがいいか、相手が判断することができるようになるからだ。

ところで、「一瞬」を英語で言えば、momentだ。英語でも、「ちょっと待ってください」というときは、「Just a moment.」という。直訳すれば、「ほんの一瞬(待ってください)」となる。英語でも、同じように「一瞬」を使っているのは、なかなかおもしろいことだと思う。

工藤静香 ポニーキャニオン 1998/11/06
(888文字)