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水木しげる「劇画ヒットラー」を読んで

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これを読みました。

水木しげるの「劇画ヒットラー」。妖怪漫画以外に、こうした本も描いていたんですね。

たんたんと描かれている印象を受けました。偏見を入れずに、つまり、悪意ある描き方ではなく、ニュートラルな立場で描いているように感じました。「こんなひどいことをしました」を羅列するような感情的なやり方ではなく、芸大に落ちてホームレスになるところから、政界進出、第二次世界大戦、そして、最後に自殺をするところまでの出来事を、細かく冷静に描いています。

その結果、情報量が多くなっています。というか、多すぎます。おそらく、本になる前はもっと多かったんだけど、だいぶ削ったんでしょう。小さな文字での補足や、変なところで改行されるセリフなど、たくさんの要素を詰め込もうとした形跡が、いたるところから読み取れます。最後にまとめられた30冊程度の参考文献からも。

そのため、あらかじめ大まかな流れを知っている人には、読みやすい本だと思います。概略をサクッとつかみたい人(僕です)には、少し情報過多で、ところどころ場面や展開の飛躍を感じるかもしれません。

「出来事をたんたんと描いている」と書きましたが、ヒトラー自身も単なる悪者だとは描かれていません。うぬぼれやすい(たまたま演説を早めに切り上げた結果、暗殺計画が未遂に終わったときに、「これは神が私に味方している証拠だ」と解釈して自信をつけるシーンとか)、被害妄想が激しい、また、愛国心が強すぎるといった点は描かれていますが、モンスターだ、怪物だ、といった単純な悪者扱いはされていません。

人物の絵はデフォルメされています。ヒトラーはわかりますが、他の人はデフォルメがひどく、妖怪的な人もいます。なぜか女性は全員普通です。時々、妙にリアルな絵が入り、それが不気味で怖く感じることもあります。

なお、ユダヤ人に対する考えや政策はあまり描かれていません。ヒトラーがとった経済政策もほとんど描かれていません。国民の支持を得たのは「演説がうまかったから」だけのように受け取れるし、ユダヤ人に対してどうしてあそこまで迫害したのかは、よくわからないように感じました。

(888文字)