「お客様は神様です」について
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言葉が独り歩きするというのはよくあることだけど、この言葉ほど歩きすぎているものはないでしょう:「お客様は神様です」。そもそもこの言葉はどういう意味だったのか、調べてみました。
このフレーズの生みの親は、歌手の三波春夫です。三波春夫のオフィシャルサイトでは、この言葉の由来や意味するところ、そして世間での誤用についてどう感じているのかなどが書かれています。また内容は結構かぶっているけれど、ウィキペディアにも説明があります。
これらを読むと、三波春夫は、本来は次のような意味で「お客様は神様です」と言っていたことがわかります:芸をするときには、神様に見せるような神聖な気持ちになる必要がある。なので、ステージを見に来ているお客様を神様だと思って、歌を歌うのだ、と。
三波春夫自身の説明には、「絶対者」というフレーズが出てきます。演者として、ステージを見に来たお客様を絶対に喜ばせなくてはいけない。ステージと客席という空間の中で、お客様はそういった絶対的な存在なので、「お客様は神様」なんですね。
芸と言うのは、娯楽のためのもの(「芸能人」や「宴会芸」などが指す「芸」)もあるけれど、儀式や祭りで行われるもの(神楽や盆踊りなど)もあります。三波春夫は自身の芸を、後者に近いものと解釈していたのだと思います。そこから、「神様」という言葉が出てきて、「ステージ上では、神様に見せるようにお客様に見せる」という発想になったと考えられます。
つまり、(まぁ確かめるまでもないことですが、)このフレーズは「お客様を神様のように扱おう」という演者の姿勢を表しているだけで、客側が演者に要求する話ではありません。三波春夫が「お客様は神様です」と言うのは何も問題ないですが、三波春夫のステージを見に来た人がそれを言うのは変です。
他の場所でも、この言葉を盾にして企業などを相手に「お客様は神様なんだから、客の言うことを聞け」などと使われることがあります。つまり、客側が「自分を神様として扱え」と主張してくるケース。この言葉を客側が使うのはそもそもおかしいし、本来の意図からも大きくずれてしまってますよね。