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【書評】スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介)

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ずいぶん前に読んだんだけど、今さら書いてみる。去年の直木賞受賞作である「スクラップ・アンド・ビルド」(羽田圭介)について。

毎日「死にたい」とつぶやく要介護の祖父と、それを実現させたいと思っている無職の主人公健斗がメイン。健斗は、老人を薬漬けにして長生きさせる選択肢しかない社会に疑問を抱いていて、「過剰に介護をし、急激に体を弱らせることができれば、祖父は楽に死ねるのではないか」と考え、着々と実行していく。

健斗の考えでは、目先の痛みや障害を取り除くだけの介護は、本当に老人のことを考えているとは言えない。見た目は健斗の行為と同じ「足し算の介護」だが、そうした行為が長い目で見てどういう結果をもたらすか、それを考えているかどうかが違うのだ。

健斗・祖父と一緒に暮らしている母は、「自分の皿は自分で片付けろ」と、祖父に厳しくあたる。一見怖そうに見えるが、寝たきりにならないための配慮だ。長期的な視野で祖父のことを考えているという点では、健斗と同じだ。

「使わない機能は衰える」。死にたいと言ってる祖父には助けを増やし、機能を衰えさせる。健斗自身はこれを反面教師にして、筋トレや試験勉強に励む。「スクラップ・アンド・ビルド」というタイトルには、こうした筋トレによる筋線維の破壊と創造の意味が含まれていると思う。

後半では、健斗は祖父の奇妙な一面を見てしまう。女性介護士の体を触ったり、家の中で俊敏に動いたり、複雑な家事ができないはずなのに自分で料理をして食事をしたり。さらに、祖父が風呂でおぼれて健斗が助けたときに「健斗が助けてくれた、死ぬとこだった」と感謝するシーンもある。祖父はぜんぜん死には近くないし、そもそも本当は死にたいとも思っていないのではないか。

登場人物は、皆それぞれに心の中で何かを考えている。しかし、言葉や行動にすると、違う内容になったり、時には全く逆になったりしている。「死にたい」と「死にたくない」、「弱らせたい」と「過剰介護」。心の言葉が一度潰されたあと、再構築されてから表面に出てくる、こういう意味での「スクラップ・アンド・ビルド」でもあるのではないか、と思う。

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