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「コンビニ人間」を読みました

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ちょっと変わっている主人公が、コンビニ店員として働くことで、普通の人間になりすましている。はじめはうまくいったが、コンビニ店員としてのキャリアが長くなりすぎた結果、再び「変わっている部分」が露呈してきてしまう。

普通の人間が普通に歩む人生。その内容を書いたマニュアルは存在しないのだけど、みんなはなんとなくそれを共有していて、なんとなくそれに従って生きている。そこから外れた考え方や人生は、「治すべき対象」となる。もっとひどくなれば、「排除すべき対象」にだってなる。

少し変わっている主人公には、その普通とやらがわからない。コンビニの仕事にはマニュアルがあるが、人生にはない。しかも、自分の考えで出した答えは、みんなからは不正解だといわれてしまう。妹に言い訳を考えてもらったり、まわりの人のまねをすることで乗り切ってはいたが、「年齢を重ねたのに正解を手にしていないのはおかしい」と世間はどんどん問い詰めてくる。

問い詰められた主人公は、再び自分で答えを出す。「縄文時代からのルール」が口癖の、支離滅裂なことを言う男を使って、現代のルールをハッキングし、「正解に見えるもの」を得た。それはすごく正解に近かったので、世間はそれを歓迎し始めた。「やっと、こちら側に来たね」と。だが、よくよく見ると、それは正解に似た不正解だった。主人公の出す答えは、いつだって不正解だった。

主人公の人生は、外圧によって、治されようとしていた。それは、自分を殺して普通の生き方を受け入れること、自分の考えよりも世間の考えを優先することであった。主人公は直前でそれを拒否して、自分のルールで生きていく決意をする。

世間が多様性を受け入れていこうとする一方で強まっていく「普通圧力」が描かれている。このテーマで書く場合、マイノリティの立場の人を出すのが書きやすいだろう。マイノリティといえば、性や国籍などが思いつきやすいが、この小説では性格・考え方・生き方のマイノリティをとりあげている点がおもしろい。「変わっている人」のエピソードも、想像のかなり上のが出てきて、極端な視点から既成概念を再考するのに役立っている。

沙耶香, 村田 文藝春秋 2018/09/04
(888文字)