デフレ脱却に必要だったものは、疫病と戦争
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日銀が近々マイナス金利政策を解除するらしい。物価が上昇したことに加え、今年の春闘で賃上げが確認できたからだ。
長年、日銀は大規模な金融緩和を行ってきた。しかしインフレは起こらなかった。21世紀の日本では、消費税と石油価格以外の理由で物価が変わることはほぼなかった。
緩和的な金融環境は、リスクをとってお金を借りたい人には魅力的だが、そんな人は少なかった。経営者は、設備投資や研究開発や人件費を増やすことより、コストカットを意識していた。景気の好循環は生まれなかった。
だが、新型コロナが状況を変えた。アメリカでは各人に30万円以上が配られた。失業保険も上乗せされた。就業時より収入が増えた人もいる。そのため、コロナが落ち着いた後は働き手の取りあいになり、時給が上がり、それが商品に転嫁されて物価も上がり続けることとなった。FRBはインフレ抑制のためにあわてて利上げを繰り返し、ドル高円安が進んだ。
日本で配られたのは、諭吉10枚とマスク2枚。各国が消費税を下げた一方で、日本はコロナ流行直前に上げた10%のまま。その上、円安が進んで輸入物価が上がったので、個人の生活は苦しくなった。一方、輸出企業は円安の恩恵を受けた。
コロナ流行中に各国でロックダウンが起こり、サプライチェーンが混乱してモノが減ったことも、価格上昇につながった。
また、ロシアによるウクライナ侵攻で、エネルギーや食糧の価格も上がった。中東情勢によっては、さらに資源価格や物流コストが上がる可能性もある。
こうして、コストプッシュ型とはいえ、日本では今までにない規模の物価上昇が起きている。「値段って上がるのか」とみんなが目を覚ました。需要増が起点となるのが理想だが、そこは目を瞑って、この機会を利用しよう。ここで賃上げも起これば、賃上げと物価上昇のサイクルが生まれるかもしれない。
そして、世間の圧力や政府の要請もあり、賃上げは実現した。円安恩恵の還元も含まれているかもしれない。大企業だけだが、大きな一歩だ。
あのまま日銀が緩和だけしていてもインフレは起こらなかっただろう。皮肉にも、デフレ脱却にはコロナと戦争も必要だった。