今日も8時間睡眠
888文字のブログです

【長文】数学解答動画で優勝したので、やったこと全部書く

🛵

スタディチューブという、教育系YouTube(r)をまとめたサイトがあります。その中で、教育系YouTuberが問題を出題し、みんなが解いて解答動画をアップする、チャレンジちゅ~ぶという企画があります。その第4回の企画に応募して、僕の解答動画がベストアンサーに選ばれたので、記念に、やったことをつらつらと書いていこうと思います。

問題を解く

問題は、 $p^r+q^r=r^{p+q-1}$ を満たす、3つの素数の組 $(p,q,r)$ をすべて求める、というものです。

京大の過去問で、似たような問題(京都大学 理系 2016年度 第2問 解説)があったなぁ、というのがパッと見たときの感想。この過去問がそんなに難しくなかったので、この動画の問題も同じようにやれば解けるんじゃないか、そんなに難しくはないだろうと予想していました。

ところが実際に手をつけてみると、まったくわからない。答えがこれだろうなという予想はつくけど、それだけが答えだというのがなかなか示せない。そうしてこういう感想に変わります。

6月22日に公開されたのですが、たまたま公開日に問題を知ったので、この日から考え始めました。初日では、なんだか解けた気がして満足したんだけど、起きて次の日に確認したら間違ってることに気づき、また考える。なんだかうまいこと場合分けしてきれいに解けないかなぁと試行錯誤していました。

僕の直感では、指数部分がちょっとでも大きくなったら、どれかの項がすごく大きくなっちゃうので、たぶん成り立たないだろうなぁ、と予想していました。 $p,q,r$ が大きければ、 $r^{p+q-1}$ の指数部分も大きくなって、右辺が大きくなりすぎるので、多分満たさないだろう、と。で、このことは、指数関数の発散スピードから言えるだろう、と。

めんどくさいのは、逆に、値が小さい時で、特に $p,q$ が2と奇数の組合せのときに手っ取り早く示す方法が思いつきませんでした。締め切り後に他の人の動画を見てわかったけど、単純に因数分解するだけでした。完全に頭が働いてませんでした。

かなり時間をロスしましたが、なんとか正しそうな解答ができました。しかも、おもしろい式変形も浮かんだので、ただ解くだけじゃなくて、解答動画も作ってみようという気になりました。

その式変形は、自分の撮った動画の最後に出てきます。あの式変形を思いついてなかったら、たぶん動画は提出しなかったでしょう。動画を作る大変さは、別のところで経験済みだったので。

動画をどう撮るか

僕はなかけんの数学ノートという、数学を解説しているサイトを更新しているのですが、動画は撮ってないんですよね。動画は撮影も編集も大変なので避けていました。そのため、まずはどうやって解答用の動画を撮るか、を考えました。

一般的なYouTubeの動画とは異なり、教育系の動画では、何かを説明してわかってもらうことがメインとなります。しかも、数学の証明系の問題なら、どうしてもテキストで説明する部分が多くなってしまいます。普通は、黒板やホワイトボードを使って説明するパターンとノートを使うパターンに分かれると思います。

黒板を使うパターンは、東進ハイスクールの映像授業のように、説明者がカメラの前に立って、板書をしながら説明するスタイルです。しかし、僕は顔出しはしたくないし、姿も見せたくはないので、この方式は即却下です。

ノートを使うパターンというのは、机の上にノートを広げ、それを上からカメラで撮りながら説明する、という方法です。こちらのほうがよさそうです。昔、オンラインで家庭教師をしていたことがありますが、これに似た形でやり取りをしていたことがあるので、勝手はわかっていました。

ところが、ここでもう少しいいことを思いつきます。iPhoneやiPadでは、画面録画の機能があります。画面での操作を丸々録画することができます。話した内容も録音できます。これを使えば、手も映らないので、「手が邪魔で画面が見えない」なんてことは起こりません。光が反射して画面が見えなくなることもないし、メリットは多いです。

ただ、この方法では、iPadで説明するときに使う資料が必要となります。紙に殴り書きした解答は手もとにあるのですが、それを資料に落とし込む必要があります。どういう方法でも説明資料は必要なので、「iPadだから必要」というわけではないですが、iPadで表示できる資料に限定されるのは欠点かもしれません。

説明資料をどう作るか

はじめは、説明資料はパワポで作ろうとしていました。普段、Office 365 Soloを使っているのですが、このライセンスでは、iPadにもインストールすることができます。資料をwindows上で作ってiPadに送ったあと、ペンで手書きのメモをつけながら録画すれば、動画が完成です。

ただ、パワポだと、数式を入力するのが面倒だということに気づきました。レイアウトは柔軟に変えられるのですが、数式入力が面倒だとやる気が起きません。今回は複雑な数式の入力はほとんどないのですが、パワポは早々に断念しました。

結局、htmlで作ることにしました。数学サイトを更新していたり、家庭教師のときにオリジナルの模試を作ったりしているのですが、そこで培ったスキルを使って、htmlファイルを作成しました。MathJaxを使えば数式は簡単に表示できます。cssを使えば、レイアウトも柔軟に対応できます。印刷してpdfで保存するようにすれば、パワポで作ったのと同じような仕上がりのスライドができあがります。

これをiPadに送ってブック(昔でいうところのiBook)で開けば、ペンで書き込みなどができます。これを画面録画すれば、動画が完成です。

こうして動画を作るところまでは一旦考えがまとまってきました。

この時点で資料を作り始めてもいいのですが、動画をあげたあとに致命的な点が見つかるとダメージが大きいです。なので、ざっくりとした箱だけを作って、一度YouTubeに動画をアップするところまでをやってみることにしました。

動画アップまでの流れを確かめる

windows上で、適当にテキストを打ち込んでhtmlファイルを作り、pdfとして印刷。それをiPadのブックでペンを使って説明しながら画面録画。その動画をもう一度windowsに移して、YouTubeにアップする。この流れを一通りやってみました。

YouTubeに動画をアップするには、チャンネルというものを作る必要があり、この作り方がよくわからず、いろいろさまよいました。チャンネルを作ってもエラーになったりして、なかなか進みませんでした。個人アカウントとの関係などもわかりづらかったです。

なんとかして動画のアップロードを行ったのですが、2つの問題が発覚しました。1つは、動画の画面レイアウトの問題です。iPadの画面録画で行うと、iPadの画面と同じ、4:3のレイアウトになるのですが、YouTubeでよく見かける動画は16:9のレイアウトです。おそらく動画はスマホで見られることが多いだろうし、スマホは16:9が多いため、16:9に変換したほうがよさそうです。

もう1つは、ブックでpdfに手書きメモを入れる際、上下に表示されるメニューが邪魔だなということです。下の図は、動画の表紙をうつしたものですが、上側に時刻やメニュー、下側にはペンツールがあって、動画の邪魔です。あるとダメってことはないですが、ないならない方がいいですね。

この2つの問題を同時に解決する方法がありました。動画編集で、画面の中央を中心として拡大する、というものです。画面全体を約1.35倍にすれば、上下の邪魔なメニューは画面の外側に出るので見えなくなる一方、左右は画面いっぱいに表示されます(上の図では、左右は空白となっています)。これを、16:9で出力すれば完成です。

あとは、文字がどの辺まで表示されるかなどを把握して、いよいよ資料の作りこみへ進んでいきます。

資料の作成第一弾

まずは、htmlで資料を作成します。自分で書いた答案を、資料に変換していきます。

作業の前に、いくつか、テンプレート用のページを用意しました。パワポのスライドマスターの要領です。2段組みレイアウトをグリッドを使って作ったりしました。

いろいろな教育系YouTuberの動画を見ていると、文字が小さいことや細いことが気になります。それに、そもそも手書きの文字は読みにくい。そこで、自分の資料は、超デカいフォントで作るようにしました。横幅1100px程度のスライドに対して40pxの文字で書いています。また、自分で手書きする部分は極力減らすようにしました。動画の時間を短くする目的もあります。背景色などは、数学サイトと同じものを使いました。

デカいフォントを使うので、ほとんど文章を書くことができません。そもそも、文章でダラダラ書いてしまうと、動画自体が見にくくなってしまいます。かといって、説明を聞かないとまったく成り立たない資料にするのもまずいので、さじ加減を考えていきます。

こうして第一弾の資料ができました。このときは、次のような内容でした。

単純に解答を出すだけではいまいちで、少しは教育的内容があったほうがいいだろうということで、問題を解く前に行う実験について簡単に説明しています。2ページ目から5ページ目までは、実験の内容。そして、6ページ目では、解答で行う場合分けの説明をしています。そして7ページ目から、実際の解答です。ページ数は、表紙も入れて、19ページです。

これをベースに、一度、画面録画もおこないました。すると、どうでしょう。あまりにもグダグダです。

いろいろなところでつまってしまい、リテイクの嵐です。これはダメです。しかも、思っていた以上に説明に時間がかかってしまいます。

動画の時間は、だいたい10分までにしないといけないので、このままだと余裕で時間オーバーです。YouTubeに動画をあげる前に、一度仕切り直しが必要なことがわかりました。

資料の作成第二弾

まずは、時間のカットのために、冒頭で行っていた実験の話を短くします。具体例は挙げずに、「いろいろ実験してみると、数が大きい場合は成り立たないと予想できる」くらいに留めておくことにします。その予想を示すときに使える道具の説明は残します。

こうして第二弾の資料ができました。当初19ページだった資料は、16ページになりました。

さらに、しぶしぶですが、原稿を書くことにしました。説明が詰まり過ぎてしまうので、仕方ないです。読み上げる感じになると逆にわかりにくくなってしまう可能性がありますが、「あー」とか「えーと」とか考える時間を短縮するには、こうするしかありません。

OneNoteでは、Apple Pencilは書き込み、指は画面スクロールと使い分けることができるのですが、ブックではそうなってくれないんですよね。ペンを解除しないと、ページ送りができません。そのため、次のページに行くには、ペンを解除して、ページを送って、またペン機能をオンにする、という手順をとらないといけないので、なかなか忙しいんですよね。

さらに、ペンの種類や色を変えたり、どの部分にペンを入れるかを考えながら、話す内容も考えないといけないし、「録画している」という緊張感もあり、あまり思うように説明できません。会話ではなく、一人で話し続けるのは大変です(予想はしてましたが)。

ちなみに、pdfを表示するツールは、OneNoteも考えていました。しかし、OneNoteでは、1ページ1画面で表示する、ということができません。ペンと指の使い分けは簡単にできて、スクロールもできるんだけど、pdfをページごとに表示させることができないので、却下しました。

原稿は、Dynalistに書きました。pdfのページに応じて書くことで、どのページでどのくらい時間がかかるか、おおまかな目安ができたこともよかったです。資料での文字の量と説明の量は連動しない部分もあるので、原稿を書くことで、時間の予測がさらに正確にできるようになりました。

原稿を書くときに、結構言葉が出てこずに時間がかかったり、表現をいろいろ吟味したりしていたので、「これを口頭でやろうとしてたのは無謀だったな」という感じでした。原稿を書くことに抵抗はありましたが、一度書いた後では、原稿なしでは無理だなと確信しました。


上の画像は、実際のDynalistでの画面コピー(最終版)です。「●●●」は、「ここでペンを使って画面にかく」という印です。資料をiPadで表示させてペンで書きこみながら、iPhoneに表示させた原稿を読んでいくため、視線がiPadとiPhoneの間を行ったり来たりします。なので、目に留まりやすいようにしています。

後で編集しやすいように、pdfの1~3ページ分を録画する、というスタイルで進めていきました。

時間がめっちゃかかっていますが、だんだんスタイルが確立してきました。

資料の作成第三弾

第二弾の資料で数ページ分を撮影して、編集して、YouTubeに非公開でアップしてみました。そこで見てみると、声がすごく小さいんですね。これはまずいと思って、撮影時にはマイクを使うことにしました。いつ買ったのか忘れたのですが、なぜかうまいぐあいにマイクがあったので、これを使うことにしました。

第三弾は、もう提出する気マンマンで撮影しました。何度も同じような作業をして慣れてきたのもあります。原稿もさらに作りこんで、資料はもう1ページ減らしました。解答の流れ(どのように場合分けするか)は、要らないだろうと判断して削除しました。

撮影後に、動画編集も行いました。昔、ぜんぜん別の機会に、動画の編集をしたことがあって、そのときには、Videopadというソフトを使っていました。今は有料になってしまったので人気が落ちているようですが、僕にとっては使い慣れたツールです。

この動画で行う編集は、映像を拡大するエフェクトを入れることと、複数の動画をつないだり要らない部分を削ったりするくらいです。そんなに高度なことはしていないので、別のツールを使ってもよかったかもしれません。

最終的に、第三弾の資料を用いて、次のような動画を作りました(限定公開でアップしてます)。

できあがった動画もよさそう。土日をほぼ丸々使って、撮影&編集を終え、YouTubeにもアップしました。7月7日の締め切りの1週間前にできたし、もうあとは提出するだけです。ただ、もっといい解法を思いつくかもしれないので、もう少し考えてみることにしました。そうすると、

思いついてしまうわけです。実際に思いついてしまうと、「作り直しかぁ(絶望)」となって、かなりめんどくさくなります。

というわけで第四弾に続いていきます。

資料の作成第四弾

動画を作って確認しているときに、ちょっと気になるところはあったんですよね。一番の懸念点は、「フェルマーの小定理」を証明せずに使っているところです。

有名な定理なので、証明はいらないでしょ、と思いつつも、冒頭に載せた出題者の動画にもあるとおり、解答に「厳密性」が求められるなら、これを証明なしで使っちゃうのはひょっとするとよくないかもしれない。高校の範囲で証明はできますが、高校の教科書には載っていません。ここが少し気になっていました。

あと、「 $p\ne q$ のときは、 $p,q$ が対称だから $p\gt q$ だけ考えればいい」という部分も、あまりきれいな流れではないな、と思っていました。ページによって、 $p\ne q$ と $p\gt q$ が混じった記述になっていて、少しまぎらわしいかな、と。

そこで、まずは、フェルマーの小定理の証明をどうやって入れようかと考えました。フェルマーの小定理の証明は、まず二項定理を使って、 $(a+b)^p\equiv a^p+b^p$ を示して、これを繰り返す、と示すのが一般的でしょう。厳密にやるなら、数学的帰納法を使います。

しかし、結構な時間がかかってしまいます。解答動画の時間は約10分という制限があり、すでに8分くらいを使っています。2分でフェルマーの小定理の証明をねじ込めるか。うーん、難しそう。

かといって、他の示し方も、短い文章・短い説明で乗り切るにはなかなか難しそうです。なので、「やっぱりそのままでいっか」と思っていました。

ところが、あるとき、ふと、「フェルマーの小定理を使わなくてもいいんじゃね?」という発想で考えてみました。フェルマーの小定理が大げさすぎるんじゃないか、実はもっとシンプルにできるんじゃないか、と。

実際そうでした。ここで言いたかった内容は、「 $p+q$ は $r$ の倍数」です。フェルマーの小定理を使えば、 $\mathrm{mod}\ r$ で、 $p^r+q^r\equiv p+q$ が成り立ちます。さらに条件式も成り立つなら左辺は $r$ の倍数だから、 $p+q$ は $r$ の倍数だと言えます。

ただ、実は、 $(p+q)^r\equiv p^r+q^r$ が言えればいいんですね。条件式から、右辺は $r$ の倍数だから左辺も $r$ の倍数であることがわかります。 $r$ は素数だから、「 $p+q$ は $r$ の倍数」となります。これなら、「二項係数が $r$ の倍数になる」ことを示すだけでよく、大幅なショートカットになります。しかも、説明する時間もそんなにかかりません。

フェルマーの小定理に関連する部分がなくなり、資料も説明も少しスッキリしました。今見ると、余計な条件(互いに素)が入っていたので、削除して正解でした。

さらに、 $p,q$ による場合分けも整理して、うまい具合にわかりやすくできました。

結構、大幅に内容を変えるため、資料や原稿にミスがないか、注意深く確認していきます。改造してるうちに、変な前提が入ってしまう可能性などがありますからね。

ページの区切り方も調整を加えて、だいぶ見やすい形になったように思います。各ページの情報量も、わりと似た形になりました。

ページ数はさらに1ページ減りました。

この資料を使って撮影し、完成版としました。

最後に突然手書きの式変形が出てきます。なぜ突然出てくるかというと、あの式変形が個人的にかっこいいなと思ったからです。この式変形のための動画だと言っても過言ではありません。

締め切り前の7月5日に提出しました。

提出後について

提出時には、動画は「限定公開」にしていました。こうすると、検索などには出てきません。しかし、動画を提出した後に、関連動画に他の人が作った解答動画が表示されていました。「公開」にしていた人がいたのでしょう。この企画で、締め切り前に「公開」で動画をあげるのはいまいちだなと思いました。

締め切り後にいろいろな人の動画を見ましたが、ほとんどの人が、偶奇で分けていました。 $p,q$ が2と奇数の組合せのときがやっかいで、僕はあきらめたのですが、因数分解すれば突破できる内容でした。この方法で解くのが、どう見ても正攻法です。

自分の動画のやり方では、補題のところで数学IIIの内容を使っていて、大げさです。ただ、これは、 $p^r$ と $r^p$ を、 $x^r$ と $r^x$ に置き換えれば、指数関数のほうがはやく発散するという有名な事実を言ってるだけの内容です。どこからともなく出てきた補題ではないです。とはいえ、この部分はもう少し説明してもよかったかなという気はします。内容のメインではない補題にどれだけ時間を掛けるかという問題はありますけど。

同じところでいうと、 $f(2)=f(4)$ は、 $2^4=4^2$ と同じことなので、これも軽く言及していた方がいいかなと思いました。

動画の感想では、すごい解答だ、編集がわかりやすい、という声をいただきましたが、アクロバティックすぎる、素人には思いつけない、という声もいただきました。確かに。自分でもなぜこれを思いついて、因数分解の解答が思いつけなかったのかは謎です。

動画を作るのは大変なので今後も作るかどうかはわかりませんが、一通りの流れが経験できたのはよかったです。この機会がなかったら、アップすることはなかったなぁ。ありがたいことです。

(8620文字)

バックリンク